■■■ baby03  キツネ ■■■




vol-54
   本のタイトル: キツネ   キツネ
   マーガレット・ワイルド/文
   ロン・ブルックス/絵
   寺岡襄/訳
   BL出版
   対象年齢 : 5歳から100歳まで


   動物を擬人化し、人間の内面を浮き彫りにする話は
   昔の伝承物語より、多く見られますが、それを絵本化したもので
   成功しているように感じます。

   犬は従順でやさしく、カササギは小さき弱きもの、キツネは姑息で冷たいと
   いう象徴として表されています。

   三匹の動物は、それぞれどこかが欠けています。
   片方の目が見えない犬、羽を焼かれて飛べなくなったカササギ
   そして、長い孤独のために、愛する心やいたわりの心を
   失ってしまったキツネです。

   あらすじは、こうです・・・

   「片方の目が見えない犬と、羽を焼かれて飛べなくなったカササギは
   心を通い合わせ、ほら穴で暮らし始める。
   そこに、孤高なキツネがやってくる。
   ふたりの仲を妬んだキツネは、カササギに甘い言葉をかけ
   砂漠に連れ出し、砂漠の真中に捨てた後、
   「これで、おもえもあの犬も、ひとりぼっちというのが、
   どんなものかあじわうことになるだろうさ」と行ってしまう。
   暑さの中、カササギは、ひとりぼっちになった犬のことを思い出し、
   ピョンピョンと犬の待っているほら穴めざして歩きはじめる。」

   そこで、物語は終わり、その後の三匹は、読者の空想に任されています。
   カササギは犬と出会え、キツネは、カササギを捨てたことを後悔することになる
   という、良い展開を望みたいものです。

   三匹のことを、どう思うかも、読者の自由な発想に委ねられています。
   カササギは、孤独を味わうどころか、犬との絆はより深くなっているように
   感じるので、キツネの思うようにならなかったということです。
   その意味で、キツネは、可愛そうな哀れな存在のように感じます。

   ロン・ブルックスの絵は、独特な雰囲気で、物語を盛り上げています。
   原本は、ブルックスの手書き文字で書かれているそうです。
   翻訳版は、川端誠氏による、日本語の手書き文字に変わっているので
   川端氏の手書き文字も大変味がありますが、原文そのままに、
   訳文は別という編集方法はなかったかと、少し残念です。

   カササギと犬が暮らすほら穴の中での、キツネの目は印象的です。
   読者をもじっと見つめて、孤独な妬みの魂を呼び起こそうとしているかのようです。

   森と砂漠という場面展開は、オーストラリアで生まれた物語らしく思います。
   雄大な自然は、自分の性にもてあそばされている人間の姿を
   あざわらっているような気もします。


   (終わり)



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